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カードバトルのソーシャルゲームが強い理由

昔、昔、MTGをやってたころを思い出す。

下記Yahoo!ニュースから引用

●「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。

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 2011年は、GREE東京ゲームショウ出展やDeNAの球団買収など、ソーシャルゲーム企業が何かと話題になった年であった。今年のソーシャルゲーム市場の活況は、携帯端末のカードバトルゲームによって支えられた。コナミの『ドラゴンコレクション』のヒットをはじめとして、各社から次々とカードバトルゲームがリリースされた。

 こうした日本の動きは、本家の米国市場とは異なる独自路線となりつつある。PCベースの米国ソーシャルゲームの課金率はさほど高くはなく、Zynga社では3%と報告される。米国企業の収益の高さは、課金率ではなく母体となるユーザー数によって支えられる格好だ。一方、日本の携帯ソーシャルゲームは、10%超を記録する課金率の高さが特徴である。

 これまで日本のソーシャルゲーム各社は、米国市場に追いつくことを目指してきた感がある。しかし、知らぬうちに日本の方がマネタイズについて一歩先を行っていたというのが、筆者の印象だ。

 携帯端末は画面が小さいことから演出上の制約があり、加えて、移動中など片手間に操作をすることからゲーム操作にも制約がかかる。それにも関わらず、PCソーシャルゲームよりも高い課金率を叩き出したのである。今回は、現在市場をけん引しているカードバトルゲームの強さについて、考えてみたい。

●カードバトルゲームの本来の魅力

 カードバトルゲームは、『遊戯王』に代表されるように紙のカードの時から人気だが、カードがデジタル・アイテムとなったソーシャルゲームによって利用者が一気に広がった。

 カードバトルゲームの魅力は、短時間で勝負がつく点と、多様なカードがもたらす戦略性にある。自分が持っているたくさんのカードからバトルに使うものを選び、それをデッキ(山札)にセットする。相手も同じようにデッキを用意して、勝負となる。

 バトル自体は1回ごとに勝負がつくので、短時間で終わらせることができる。一方で、カードの組み合わせによって多様な効果やルールが出てくるという、ゲームの奥行きもある。プレイの気軽さと多様性という相反する魅力を兼ね備える点が、カードバトルの魅力である。

●短時間で演出するエントランス

 カードバトルのソーシャルゲームは、なぜ急速に成長したのだろうか。筆者は、カードバトルゲームの本来の魅力が、ソーシャルゲーム化することで増幅されたからであると考える。「1.ゲームのエントランス」と「2.課金フェーズ」に分けて、考察したい。

 ゲームのエントランスは、ゲームの世界観を伝えるオープニング映像やゲーム操作を習うチュートリアルなどから成り、ゲームの進化に伴って凝った作りになる傾向があった。ビデオゲームではオープニング映像に多額の制作費がかけられ、MMO(多人数参加型オンラインゲーム)ではクリアするのに数時間かかる立派なチュートリアルが作られた。

 それに対して携帯ソーシャルゲームに求められるのは、何よりも所要時間の短さである。新しいゲームを始めても数分後には電車の乗り換えで中断するような状況である。しかも、暇つぶしにアクセスした関心の薄い人には、長いエントランスに付き合う忍耐強さを期待できない。

 基本無料のビジネスモデルでは、ユーザーに「明日もアクセスしたい」と思わせ続けて利用継続者を保ち、その上で「金を払ってでもしたい」と思うユーザーをどれだけ作り出せるかが勝負となる。つまり、課金率を上げるには、まずはエントランスでの脱落者を減らさねばならない。

 しかし、翌日もアクセスしたいという没頭を生み出すのに、数分というリミットはあまりに厳しい。面白さを体感してもらおうとすると、つい長くなってしまう。独自性の高いゲームであればなおさら説明が必要だ。

 その点、カードバトルゲームの場合、基本的なルールはどのゲームでも変わりがないので、細かな説明がなくても先に進むことができる。筆者は最近、各社ゲームのチュートリアルばかりをプレイしている。数多く見ていくと、チュートリアルといえども一様ではなく、簡潔でありながら手ごたえのある秀作が存在する。しかしながら、カードバトルゲームの場合、秀作と駄作の差が比較的小さいように感じる。カードバトルという土壌に乗ることで、分かりやすく簡潔なチュートリアルにしやすいようである。

●カードにまつわる常識を利用したマネタイズ

 カードというお膳立てが使えるのはチュートリアルだけではなく、課金の局面にも効いてくる。

 金を払って購入するものとして、カードというのは分かりやすい。ビックリマンチョコに野球選手のトレーディングカード。紙のカードの時代から、「カードには価値がある」という一定の常識がある。カードとは収集するものであり、大事に取っておくものである。中にはレアなカードがあり、それを手に入れるには時間や手間をかけるか、運にたのむか、あるいは金が必要である。こういった常識がカードという概念に埋め込まれている。だから、有料アイテムとしてカードをもってくることで、ゲームになじみのない層にも説得力をもって販売することができるのである。

 また、カードには多種多様あり、それを集めるのが楽しいという常識から、有料アイテムとして多種多様なカードを販売しても、違和感が生じにくい。「希少で価値のある」アイテムを「たくさん」生み出して売るビジネスに矛盾が起きないのは、カードにまつわる常識を利用しているからである。有料で販売するアイテムに事欠かないのは、カードバトルゲームの強みとなる。

 さらに、カードという存在そのものがソーシャルであることが、マネタイズに効いてくる。カードとは、他人に見せ、競い、トレードするものであることから、ソーシャル要素としてゲーム設計に組み込みやすい。

 ゲーム進行とソーシャル要素とがマッチした時に、「金を払ってでもアイテムが欲しい」とユーザーに思わせることができる。ゲームに白熱しただけではまだ弱く、そこに他人の視線が加わることで、有料アイテムが売れるようになる。人と比べるからより強いカードが欲しくなり、仲間と一緒に楽しみたいから強いカードが欲しくなるのである。

 つまり、カードそのものにソーシャルと課金対象という概念が含まれているので、これをゲーム進行に取り入れれば、より課金しやすいゲームができあがることになる。

●ゲーム進行とカード

 ビデオゲームの時代から、「ゲームの面白さの本質は、達成感を作り出す報酬(リワード)の設計にある」と言われる。ユーザーが時間や労力を投入した結果として、レベルアップの演出や仮想アイテムが与えられる。自分がしたことに対して適切に報酬が得られることで、人は達成感や満足を感じるという。現実世界では、頑張りに対して即座に報われることはむしろ少ない。だからエンターテインメントの世界では報われたいのである。

 ゲームで得られるアイテムやマネーもすべて仮想であるように、報酬とはいっても金銭的で実利的である必要はない。報酬が何であるかというよりも、レスポンスをタイミングよくすることの方が大事である。

 ソーシャルゲームではチュートリアルの段階から、リワードのシャワーが降り注ぐ。エンターボタンを1つ押すだけで、「おめでとう! よくやった!」とほめられる。派手な効果画面になる。仮想アイテムがじゃらじゃらと出てくる。

 エントランスの数分間のプレイでハマるのは、このようにきわめて短いインターバル(間隔)でリワードのシャワーを受けるからである。ゲームを始めた直後は、ステータス値ももらったアイテムのありがたみもよく分からないが、とにかく何かもらったという達成感がある。じゃらじゃらたくさん出てくる感じにハマるのである

 序盤ではちょっとしたアクションだけで報酬が得られたが、だんだんとハードルが上がっていき、ゲームは中盤に入る。まずは、時間をかけないと手に入れられないものが出てくる。例えば、体力が切れて2時間経たないと先に進めないような、「待ち」の指令が出る。そして、エンターさえ押せばもれなくもらえたリワードが、ユーザーの選択と判断によってゲーム進行に違いが生まれ、もらえるリワードにも差が出てくる。より価値のあるアイテムには、より複雑で時間のかかるクエストが対応する。このことから、仮想アイテムの間にはグレードの差があるという認識が生まれ、無料アイテムと有料アイテムを区別する尺度ができる。こうしてやっと有料アイテムの販売の土台ができあがる。

 短いインターバルと小さな報酬、長いインタバルと大きな報酬、という複数のリワードシステムがゲーム内で並行して走り出す。小さなリワードの輪から大きなリワードの輪へと、自動車のギアを次々と入れるようにユーザーを誘導することで、息の長いゲームプレイが実現される。

 カードバトルゲームでは、複数のリワードシステムにカードが配置される。無料カードは、簡単なクエストのご褒美として設置される。難易度があり時間のかかるクエストでは、より強くレアなカードが用意される。カード自体に多様性があるので、並行する複数のリワードシステムの中に組み込むことができる。カードはリワードシステムに組み込まれることで、有料販売に耐えうる存在に昇華する。

 現在、カードバトルゲームはもうかると言われ、模倣による乱立が続く。しかし、次のジャンルを打ち立てる応用力を持つためにも、こうした仕組みとポテンシャルの理解に努めたい。

●野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site